
多くの企業でリモートワークの根幹を支えるVPNですが、その脆弱性を狙ったサイバー攻撃が後を絶ちません。働き方の多様化が進む現代において、従来のVPNによるセキュリティ対策だけでは、巧妙化する脅威から企業の重要情報を守りきれないケースが増加しています。
この記事では、VPNに潜む脆弱性とその具体的なリスク、そして今企業が取るべき基本的なセキュリティ対策から、VPNの限界を乗り越える次世代のソリューションまでをわかりやすく解説していきます。
目次
VPNの脆弱性が狙われる理由
なぜ今、これほどまでにVPNの脆弱性がサイバー攻撃の標的となっているのでしょうか。その背景には、私たちの働き方やビジネス環境の大きな変化が関係しています。
リモートワーク普及によるVPN利用者の急増
近年、働き方改革やパンデミックの影響で、リモートワークが急速に普及しました。多くの企業が、社外から社内ネットワークにアクセスするための手段としてVPNを導入したため、VPNの利用者が爆発的に増加しました。攻撃者にとって、利用者が多いシステムは格好の標的です。VPNを突破できれば、多くの企業の社内ネットワークに侵入できる可能性があるため、攻撃の対象として狙われやすくなっているのです。
サイバー攻撃の巧妙化・高度化
サイバー攻撃の手口は年々巧妙化・高度化しています。過去には単純なウイルスが主流でしたが、現在ではランサムウェア攻撃や標적型攻撃など、より悪質で組織的な攻撃が増加傾向にあります。攻撃者はVPNの脆弱性に関する情報を常に収集しており、修正プログラムが適用される前の「ゼロデイ」と呼ばれるタイミングを狙って攻撃を仕掛けてくることも少なくありません。
サプライチェーン攻撃の起点としての悪用
大手企業は強固なセキュリティ対策を講じていることが多いため、攻撃者は直接侵入するのではなく、セキュリティ対策が比較的脆弱な取引先や子会社を経由して侵入を試みる「サプライチェーン攻撃」を仕掛けることがあります。この攻撃の起点として、取引先が利用しているVPNの脆弱性が悪用されるケースが報告されています。自社だけでなく、取引先全体のセキュリティレベルを考慮する必要性が高まっています。
VPNの脆弱性が引き起こすセキュリティリスク
VPNの脆弱性を放置すると、企業活動に深刻な影響を及ぼす様々なセキュリティリスクにつながります。営業部門やマーケティング部門の担当者様にとっても、決して他人事ではありません。
機密情報や個人情報の漏洩
VPNを突破されて社内ネットワークに侵入されると、顧客情報や取引情報、開発中の製品情報といった企業の機密情報が外部に漏洩する危険性があります。情報漏洩は、企業の競争力を著しく低下させるだけでなく、顧客や取引先からの信頼を失う原因となります。
ランサムウェア感染による事業停止
近年、最も深刻な脅威の一つがランサムウェアです。攻撃者はVPNの脆弱性を利用して社内ネットワークに侵入し、サーバーやPC内のデータを暗号化して使用不能にします。その上で、データの復旧と引き換えに高額な身代金を要求します。万が一感染した場合、基幹システムが停止し、製品の出荷やサービスの提供ができなくなるなど、事業継続そのものが困難になる可能性があります。実際に、人手不足や物価高騰を要因とした倒産に加えて、サイバー攻撃による事業停止が倒産の引き金となるケースも増加しています。
不正アクセスによる社内システムへの侵入
攻撃者は、一度社内ネットワークへの侵入に成功すると、さらに内部の他のサーバーやシステムへと侵入範囲を広げようとします(ラテラルムーブメント)。その結果、管理者権限を乗っ取られ、システムを不正に操作されたり、データを改ざん・破壊されたりする可能性があります。また、自社のネットワークが別の企業を攻撃するための「踏み台」として悪用されるケースも少なくありません。
企業の信頼失墜と経済的損失
セキュリティインシデントが発生すると、その対応には多大なコストと時間が必要です。システムの復旧費用、顧客への補償、専門家への調査依頼費用などに加え、インシデントを公表したことによるブランドイメージの低下や顧客離れは、長期的に見て計り知れない経済的損失につながります。
すぐに実施できるVPNのセキュリティ対策
VPNの脆弱性がもたらすリスクは深刻ですが、まずは基本的な対策を徹底することが重要です。ここでは、企業がすぐに実施できる3つの基本的なセキュリティ対策を紹介します。
対策1:ファームウェア・ソフトウェアの定期的なアップデート
VPN機器のメーカーは、脆弱性が発見されるたびに、それを修正するためのファームウェアやソフトウェアの更新プログラムを提供しています。このアップデートを速やかに適用することが、最も基本的かつ効果的な対策です。攻撃者は常に既知の脆弱性を狙っているため、更新を怠ることは、自宅のドアに鍵をかけずに外出するようなものです。情報システム部門と連携し、常に最新の状態を保つ運用体制を構築することが不可欠です。
対策2:強固なパスワード設定と多要素認証(MFA)の導入
VPNへのログインに使用されるIDとパスワードが単純なものであったり、他のサービスと使い回していたりすると、容易に突破される可能性があります。「大文字・小文字・数字・記号を組み合わせる」「定期的に変更する」といった基本的なパスワードポリシーを徹底しましょう。
さらに、IDとパスワードに加えて、スマートフォンアプリやSMSで発行されるワンタイムパスワードなどを組み合わせる「多要素認証(MFA)」の導入は、不正アクセス対策として非常に有効です。万が一パスワードが漏洩しても、第三者による不正ログインを防ぐことができます。
対策3:アクセスログの監視と異常検知
VPNのアクセスログを定期的に監視し、不審なアクセスがないかを確認することも重要です。「深夜や早朝のアクセス」「普段アクセスしない国からの接続」「短時間での大量のログイン試行」といった異常を検知できる体制を整えることで、万が一のインシデントを早期に発見し、被害を最小限に抑えることが可能になります。
従来のVPN対策だけでは限界?新たなセキュリティ課題
基本的な対策はもちろん重要ですが、現代のビジネス環境では、従来のVPNを中心としたセキュリティ対策だけでは対応しきれない新たな課題が生まれています。
クラウドシフトで複雑化するネットワーク環境
多くの企業が、業務システムを社内サーバー(オンプレミス)から、AWSやMicrosoft Azureといったクラウドサービス(IaaS/PaaS)や、Salesforce、Microsoft 365などのSaaSへ移行しています。その結果、守るべき情報資産は社内だけでなく、社外の様々なクラウド上にも分散するようになりました。
従来のVPNは、社外から「社内」のネットワークに入ることだけを想定した仕組みです。そのため、社員がクラウドサービスを利用する際には、一度社内のVPNサーバーを経由してからアクセスする必要があり、通信の遅延やネットワーク帯域の逼迫といった問題を引き起こす原因となっています。
「境界防御型防御モデル」の限界と課題
従来のセキュリティは、「社内ネットワークは安全、社外のインターネットは危険」という考え方に基づき、社内と社外の境界線上にファイアウォールやVPNといった防御壁を設置する「境界防御型防御モデル」が主流でした。
しかし、クラウド利用の拡大やリモートワークの普及により、この境界線は曖昧になっています。一度VPNを通過してしまえば、社内では自由に通信できてしまう仕組みは、内部に侵入したマルウェアの感染拡大(ラテラルムーブメント)を容易にしてしまうという大きな課題を抱えています。
多様なデバイスからのアクセス管理の難しさ
業務で利用する端末も、会社支給のPCだけでなく、個人のスマートフォンやタブレット(BYOD)など多様化しています。これらの様々なデバイスすべてに、同レベルのセキュリティ対策を施し、一元的に管理することは非常に困難です。VPNでは、どの端末からアクセスしているのかを厳密に管理することが難しく、セキュリティ対策が不十分な個人端末が攻撃の踏み台にされるリスクも高まっています。
VPNの脆弱性や新たなセキュリティ課題を解決する「SASE(サッシー)」
こうした従来のVPNが抱える課題を解決する新しいセキュリティの考え方として注目されているのが「SASE(Secure Access Service Edge)」です。
SASEの仕組み
SASEは、ネットワーク機能とセキュリティ機能を一体化し、クラウドサービスとして提供するモデルです。世界中に配置された「PoP(Point of Presence)」と呼ばれる接続拠点に、ファイアウォールやURLフィルタリング、不正侵入防御システム(IPS)といった様々なセキュリティ機能が集約されています。
利用者は、場所や使用するデバイスを問わず、最も近いPoPに接続するだけで、安全で快適なネットワークアクセスが可能になります。これにより、従来のように通信がデータセンターに集中することなく、パフォーマンスの低下を防ぎながら、統一されたセキュリティポリシーを全ユーザーに適用できます。
SASEを利用するメリット
SASEを導入することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
・ゼロトラストセキュリティの実現:「すべての通信を信頼しない」というゼロトラストの考え方に基づき、通信をすべて検査することで、脅威の侵入を水際で防ぎます。
・セキュリティレベルの向上と均一化:場所やデバイスに関わらず、すべてのアクセスに対して一貫したセキュリティポリシーを適用できます。
・ネットワークパフォーマンスの改善:クラウドサービスへのアクセスが最適化され、VPNで課題だった通信の遅延を解消します。
・運用管理の簡素化:ネットワークとセキュリティの管理をクラウド上で一元化できるため、情報システム部門の運用負荷を大幅に軽減できます。
Cato Networksで実現するSASEプラットフォーム
SASEソリューションの中でも、世界中の大手企業から支持されているのが「Cato Networks」です。Cato Networksは、世界100拠点以上に展開する独自のバックボーン(PoP)を活用し、ネットワークとセキュリティ機能をクラウドネイティブなプラットフォームとして提供します。
VPN機器の脆弱性管理や、拠点ごとに異なるセキュリティ機器の運用といった煩雑さから解放され、すべての拠点、すべてのユーザー、すべてのデバイスに対して、統一された高度なセキュリティを適用できます。パフォーマンスの最適化とセキュリティの強化を両立し、企業のDXを加速させるCato Networksは、従来のVPNに代わる次世代のネットワークセキュリティ基盤と言えるでしょう。
まとめ
本記事では、VPNの脆弱性がなぜ危険なのか、その理由と具体的なリスク、そして基本的な対策について解説しました。リモートワークの普及によりVPNの重要性が増す一方で、その脆弱性を狙ったサイバー攻撃は増加傾向にあり、情報漏洩や事業停止といった深刻な事態を招きかねません。
ファームウェアのアップデートや多要素認証の導入といった基本的な対策は必須ですが、クラウド利用の拡大や働き方の多様化が進む現代では、従来の境界防御型防御モデルには限界が見え始めています。
こうした新たな課題に対応する次世代のセキュリティモデルとして「SASE」が注目されています。SASEは、ゼロトラストの考え方を基に、ネットワークとセキュリティをクラウド上で統合し、場所やデバイスを問わず安全で快適なアクセス環境を提供します。セキュリティ対策の見直しは、もはや待ったなしの経営課題です。本記事が、貴社のセキュリティ戦略を再考する一助となれば幸いです。













